ミュージシャンから絵本作家へ。絵本大賞受賞作品『かいとうあっというま』レビュー

人生のコンパス

ご無沙汰しております。『スイミーの隠れ家』編集長の司紗です。

前回のKAT-TUNの記事以来、かなり時間が空いてしまいました…。

こちらはピエール中野さんに拡散していただき、非常にたくさんの方に読んで頂ける記事となりました。

ピエール中野さん、読んでくださった方、本当にありがとうございました。

さて久しぶりの今回は、本業のWeb編集の仕事でお話を聞かせていただいた、あるデザイナー/絵本作家の方の作品について、書いていきたいと思います。

その作家の名は、塚本ユージさん。

塚本さんの描いた絵本『かいとうあっというま』が「be絵本大賞」で大賞を受賞しました。

審査員は作詞家の秋元康さん、脳科学者の茂木健一郎さん、書道家の武田双雲さんなど、錚々たる顔ぶれ。

今回は『かいとうあっというま』という作品の素晴らしさをレビューという形でお伝えするとともに、作者である塚本さんのキャリア、そして『かいとうあっというま』が生まれるまでの背景をご紹介していこうと思います。

『かいとうあっというま』とは?


出典:be絵本大賞より

『かいとうあっというま』は、デザイナーであり絵本作家の、塚本ユージさんの絵本作品です。

本作品は、本年度の「be絵本大賞」で大賞を受賞されています。

ストーリーは以下の通りです。

楽しい時間はアッというまに終わってしまう。それは“かいとう あっというま”という大泥棒のしわざ。遊園地で大はしゃぎのエミリー、「チッ チッ チクタク…」 どこからともなく“あっというま”が楽しい時間を盗んでいく。うれしい誕生会もおでかけも“あっというま”に盗まれて。こまったこまった。でもストップはかせの発明で“あっというま”がつかまった。みんなは大喜び! 楽しい時間は終わらない。それを見て“あっというま”が悲しんだ! おこった! さぁ、どうなる? …「こどもでいる じかんも アッというまにおわってしまう」

出典:be絵本大賞より

あらすじにある通り、この作品は「楽しい時間」を「かいとうあっというま」が盗んでしまう、という切り口で話が進んでいきます。

まずは僕なりの視点ではありますが、この本のおもしろいと思うポイントを挙げていきます。

大人もこどもも考えるべき「時間の大切さ」というテーマ

「時間の大切さ」という、おそらく全ての人間において共通する大きな問題を、絵本という媒体を使って分かりやすく表現しているところが、この作品の特徴です。

「なんで楽しい時間は、あっというまに終わってしまうの?」

そんな疑問から、もしその楽しい時間がずっと続いたら…? という「ifの世界」をかわいらしい絵と、絵本特有の言葉遣いで表現されています。

つい声に出して読んでみたくなる、言葉たち

素晴らしい絵はさることながら、この作品の魅力は、ストーリーを語る「言葉たち」にもあるのではないかと思っています。

つまらないじかんが ながーく
〜なことは ある?
〜なことは ない?

作中に出てくる言葉を声に出して読んでみると、とても抑揚がつけられており、読みやすくなっています。

おそらくこれは「読み聞かせ」されることを前提に設計されているのではないでしょうか?

他にも取り上げたい言葉がたくさんあるのですが、あまり書くとネタバレになってしまうので、詳しくは実際に本を読んでみてください。

絵、テーマ、言葉の魅力を最大限に引き出す、構成の素晴らしさ

絵、テーマ、言葉。

それぞれが高い次元で完成されていても、どういう順番で、どんな手段で伝えるのかを最適な形で設計されていなければ、それぞれの良さが半減してしまいます。

しかし、この『かいとうあっというま』は、その魅せ方もとても上手いのです。

そのレベルの高さは、数々のテレビ番組をヒットさせた放送作家、秋元康さんが絶賛するほど。

話の組み立てを構成、と呼びますが、絵本とテレビで媒体は違うとはいえ「構成」の大ベテランで秋元さんを唸らせるのは、言わずもがな、そう容易いことではありません。

ヴィジュアルで、音で、その奥にあるテーマを的確に伝え、考えさせる。

本業で編集や執筆、音楽に教育など、あらゆる場面で伝え方について考えることが多い私ですが「こんな方法もあるのか」と、とても参考にさせていただきました。

作者の塚本ユージさんについて

僕がなぜ今回、この記事を書こうと思ったのか。

それは、本業の仕事で一度お話を聞かせていただいたことがきっかけでした。

秋元康氏も絶賛! 塚本ユージが「絵本大賞」受賞作品『かいとうあっというま』を創るまで

詳しくはこちらの記事にもありますが、簡単に塚本さんのキャリアを振り返っていこうと思います。

ミュージシャンからデザイナーへ

塚本さんの小さい頃の夢は、ミュージシャンになることでした。中学時代から作詞作曲を始め、大学を卒業後もミュージシャンとして活動されています。

しかし、結婚を機に就職。

当時全く未経験だったという、デザイナーとしてのキャリアを歩み始めます。

ミュージシャンからデザイナーへ。大胆な転身とも思えるこのキャリアの歩みが、意外なところで今回の絵本大賞につながってきます。

絵本大賞を支えたのは、中学時代からつけていた「作詞ノート」


デザイナーとしては、全くの素人だったと語る塚本さん。

ゼロからWebデザインを学び、3年間で2度、計3社の転職を経て、独立。デザイン事務所を立ち上げます。

開業して間もなくは、とても忙しい毎日を送っていたそうですが、しばらくして会社の基盤が固まると、次第に自分のやりたいこととできることが明確になっていきました。

そして音楽に代わる新たな自己表現の形を模索した結果、絵に行き着いたそうです。

今回の『かいとうあっというま』という作品の他にも、未発表のものも含め、いくつか作品を描かれています。

そしてそんな「塚本作品」が生み出される背景には、中学時代からつけていた「作詞ノート」の存在がありました。

塚本さんは作詞作曲を始めた中学時代から、自分がその時に思ったことや考え感じたことをノートに付けていました。

昔はそれを音楽で表現していたわけですが、今はこうして絵やストーリーのネタ帳として活かされています。

自分の作品で、誰かを笑顔にしたい

塚本さんにとって、音楽で自分を表現しようとしていた時代も、絵本を描いている今も、変わらない信念。

それは「自分の作品で、誰かを笑顔にしたい」ということ。

絵本以外にも、小学校の音楽の教科書の表紙デザインも担当されるなど、ご自身の絵で多方面に活躍しています。

手段は違えど、自分の叶えたい目的はブレない


今回の『かいとうあっというま』を読んで、そして塚本さんのお話を聞かせていただいて、僕自身がとても強く感銘を受けたのは、

「自分が叶えたい目的を達成するために、あらゆる手段を使ってみる」ことの大切さでした。

塚本さんで言うなら「自分の作品で誰かを笑顔にする」ための方法は、音楽だけではないということ。

あまり過去にとらわれず、得意な手段や自分のできることを使って、目的を達成するって、とても大切ですよね。

この『スイミーの隠れ家』は、「若きスイミーに泳ぎ方を伝える」「進学・就職以外のキャリアの選択肢を考える」をコンセプトに立ち上げました。

時にこうした記事の力を使って、時に教育者・表現者として現場に立って、自分の経験や考えを微力でも誰かの力になればと思って、僕は毎日生きています。

塚本さんのような、ステキな人生の先輩の姿を伝えることが、少しでも「どこかにいるスイミー」の役に立てたらと思っています。